2005年の月組と2014年花組の「エリザベート」を見比べてみました。
なぜこの2作品なのかというと、現在宝塚オンデマンドで見ることができるからです。
たまたま見たのですが、この2つの組で上映された「エリザベート」は非常に明暗が分かれていました。私の独断と偏見が入り混じった解説ですのでご了承ください。
2005年月組「エリザベート」
まずは配役から見てみましょう。
トート:彩輝直
エリザベート:瀬名じゅん
フランツ・ヨーゼフ:初風緑
ルイジ・ルキーニ:霧矢大夢
お一人ずつ見てみたいと思います。
トート
彩輝直のトートは、演出家の先生から「今までで1番美しいトート」と大絶賛だったと言う事ですが、演技のほうはイマイチだったと思います。
黄泉の帝王なので、常に冷ややかでクールな印象である事は間違いないのですが、それにしてもあまりにも表情に変化がなく能面のようなトートでした。
黄泉の帝王であるシーンと幼少期のルドルフと接するとき、また市民の間に立って王家に反旗を翻す運動の中に交わるシーンなど、それぞれの表情があっても良かったのではないでしょうか。
冷ややかにニヤリと笑ったり、怒りを表したり、幼い子どもに見せる偽りの優しさの表情なども演じ分けて欲しかったですね。
エリザベート
2005年月組「エリザベート」の失敗したところは、大柄の男役をエリザベートに起用したことです。
瀬名じゅんさんのお芝居をまじまじと見たのは今回が初めてで、「エリザベート」だけで判断すると、あまり役作りができていない印象でした。
エリザベートの細かな感情の表現がイマイチで、動きも緩慢で私としてはとてもガッカリな仕上がりでした。
エリザベートはフランツの浮気以来、ろくに食事もとらず体操ばかりをしているため、痩せているという設定ですが、瀬名じゅんの場合、二の腕がタプタプしていて華奢なイメージが表現できていませんでした。
「驚異のウェスト50センチ」がクダリがありますが、とてもそんな感じではなかったようですが、皆さんはどう思われますか?
また、幼少期から亡くなる直前までを演じ分けるのですが、声のトーンやセリフの言い方にあまり変化がなく、全体的にのっぺりとした感じでした。
特に気になったのは歌唱力です。セリフのほとんどが歌で構成されているミュージカルなので、これは致命的だと思いました。
高音になると口が開かなくなり、口の中に音がこもったような発声になってしまうのが気になりました。あれだと喉が閉まってしまい、余計に歌イズ楽ないのかな?と思ったのが感想です。
エリザベートの1番の見せ所である「私だけに」では口を大きく開いて力の限り歌い、歌い切った後に倒れるというシーンでも、半開きの口でヒョロヒョロとした声で歌っていたので迫力に大きく欠けていました。残念です。
ルイジ・ルキーニ
現在と過去とをつなぐ重要な役割であるルイジ・ルキーニ。コミカルなシーンもあって、とても楽しい役なのではないかと思いました。
ルイジは霧矢大夢にピッタリの役だと思うのですが、こちらもセリフの抑揚などもう少し工夫があっても良かったのでは?と思います。
例えば、1番初めにトートの登場する場面で、「またの名を死」と言うところがあるのですが、間を取りすぎていて聞きづらかったです。
すべてのシーンにおいて傍観者のような役割ですが、舞台上の演者を見つめる姿はとってもかっこよかったです。
霧矢大夢さんはとても色気のある人なので、ルイジのような一癖ある役はとても似合っていると思います。
フランツ
実際のフランツはとてもイケメンなので、初風さんのようなシュッとした感じの男役さんはフランツが似合っていましすよね。
ただ可もなく不可もなくといった感じで、見終わった後特にめちゃめちゃ印象に残っていると言う感じではありませんでした。
歌が特にうまいとか、芝居の幅を感じさせると言うわけでもなかったので、そこが残念です。
特にお見合いシーンの後、エリザベートにプレゼントの首飾りをかけてあげるところはもうひと工夫しかったです。
ポケットからあっさり首飾りを出し、これまたあっさりと首にかけてあげるのですが、全体的にあっさりが過ぎてステキなシーンなのに残念な仕上がりになっていました。
「時間、間に合う?」と見ている方が焦ってしまう間の取り方。あれは演出上しかたなかったのでしょうか?
総評
月組の「エリザベート」に関しては、全体的に辛口の評価になりましたが、これはあくまでも私の個人的な感想なのでご了承ください。
私は初めて「エリザベート」を見たのは初演の一路真輝さんのトートでした。なので、どうしても再演は初演を基準に評価してしまいます。
エリザベートは華奢で、品がある方が適任だと思うし、トートは歌唱力のある演者が演じるべきだと思っています。その点では、月組の「エリザベート」は駄作でした。
2014年花組「エリザベート」
2005年の月組公演からは演出も役柄に対する解釈も少し変化があったかと思いますが、大きく異なるところはなかったように思います。
2014年華組の配役が以下の通りです。
トート:明日海りお
エリザベート:蘭乃はな
フランツ・ヨーゼフ:北翔海莉
ルイジ・ルキーニ:望海風斗
お一人ずつ見てみたいと思います。
トート
ネット等の評価を見ても、明日海りおさんのトートはあまり評価されていないように思います。それが不思議!もっと評価されても良いのに・・・というのが私の感想です。
私個人としては明日海さんのトートが1番良いと思っているくらいですから。
歌唱力といい、演技力といい、またそのルックスといい、申し分ないと思っていますか、皆さんはどう思われますか?
私の勝手なトート像ですが、エリザベートと出会うまでは黄泉の帝王として君臨していたのが、エリザベートと出会ったことでどこか自分の中の臆病な部分が出てくるはず。
このままエリザベートから愛されないのではないか、このままこの愛は成就しないのではないかと言う恐ろしさがトートの中に見えた方がベストだと思います。
明日海りおさんのトートには、冷血な表情の中にもどこか怯えているような部分が見え隠れし、私としては大満足でした。
さらにシーンごとに表情の違うトートを演じ分けられていました。例えば独立派のジュラやシュテファンなどと言葉を交わすシーンでは、どことなく人間くさい物腰が感じられました。
さも自分も王族に反旗を翻しているかのような言動は、まさにエリザベートへの愛情とは裏腹に可愛さ余って憎さ100倍と言う感じでしたよね。
また、ルドルフに対しては、親心が芽生えているのでは?と思わせるような優しさも感じられたし、とっても良かったと思います!
エリザベート
蘭乃はなさんのエリザベートは花總まりさんを彷彿させるものでした。
ご自身でも「花總さんに憧れを持っている」とおっしゃっていたほどですので、よく舞台もご覧になっていたのではないでしょうか。
お顔立ちもとてもよく似ていて、花總まりさんが宝塚を代表するエリザベートであるように、蘭乃はなさんもそれに近いものがあると思います。
エリザベートの1番の見せ所は、フランツ自らエリザベートの部屋を訪れ「力を貸してほしい」と言われ、鏡の扉の向こうから真っ白なドレスで登場する1幕のクライマックスシーンですよね。
見ている人が息を呑むような美しさを見せつけるシーンです。そこで観客を魅了することができれば、それはエリザベート役として合格だと言えるでしょう。
蘭乃はなさんは、まさにそのシーンで合格点を得た娘役さんだと思います。
それよりも私が蘭乃はなさんを評価するところは、幼少期のエリザベートの登場シーンです。
まだ幼いエリザベートを見事に演じていて、これから始まる物語にワクワクさせてくれます。
人差し指をぴんと立て上下にブンブンと振りながら、パパや弟たちに何かを説き伏せるように言っている仕草は、「あー、エリザベートは幼い時こんなしゃべり癖があったのかな?」と思ってしまいます。
大人になるとその仕草は見られなくなり、細かな部分まで役作りがされていたのでしょうね。
ルイジ・ルキーニ
この役は初演の轟悠さんがかなり評価が高く、後に続く生徒さんはとてもやりづらいのではないかなぁと思いました。
望海風斗さんのルイジ・ルキーニは、轟悠さんにどこか似ているけれど、全く違うものが作り上げられていました。
困っているような笑っているような表情でセリフを言うシーンが目立ち、それがとっても魅力的でした。
私が特に好きだったのは、エリザベートのお母さんがヘレネを連れてフランツ王子の元へお見合いに向かうシーンです。
重たい荷物を運びながら「これ何入ってるの?」などとアドリブを入れる日もあり、コミカルでとても素敵でした。
この役は物語の進行役という役柄なので、事の流れを客観的に楽しみながら見ていると言う役を見事に演じておられたと思います。
フランツ
北翔海莉さんは、歌がうますぎ!思わず聞き惚れてしまいました。
どこかのサイトで演出家から「あなたはフランツらしくない」と厳しく酷評されていたようですが、本番までにここまで仕上げたのでしょうか。それとも演出家の先生はまだ不満が残っているのでしょうか。だとしたら、めちゃめちゃ厳しい演出家の先生ですよね。
北翔さんのフランツは皇太子と言う立場でありながら、やはり母親には頭が上がらないと言う雰囲気がめちゃめちゃ出ていました。
常に母親の言う通りにおとなしく従って、とってもお利口さんのフランツ王子像がよく表現されていました。
エリザベートから嫁姑問題を突きつけられても、口でうまく言いくるめるだけで実際にはタジタジしちゃうダメ夫と言う感じもよく出ていましたよね。
後には、お母さんに掛け合い子供たちを返してもらうなどエリザベートに尽くす姿勢が見られますが、お母さんの仕組んだ罠にもまんまと引っかかると言うダメっぷりが見ものでした。
月組の所でもお伝えしましたが、エリザベートに初めてプレゼントを渡すシーンは、花組では少し演出の変更があったのでしょうか。
北翔海莉さん演じるフランツはエリザベートにゆっくりと首飾りを見せてから首にかけてあげると言う時間の余裕が見られました。
だから余計に「愛の証」である首飾りが強調されていました。私はあのシーンがあっさり過ぎちゃうとダメだ!と思っているので、花組の方がずっと良かったです。
だって、あのシーンくらいしか2人の愛を表現するところがないんですもんね。
私は花組のこのシーンを何度も見ていたので、月組の同じシーンで違和感を感じたのかもしれません。気になった方はぜひ宝塚オンデマンドで見比べてみてはいかがでしょうか。
とにかく北翔海莉さんは歌がうますぎる!この一言に尽きると思います。
総評
総評も何もないのですが、私は花組の「エリザベート」の方が好きです。
花組のファンでもなく、明日海りおさんや望海風斗さんのファンでもありませんが、花組の「エリザベート」は大好きで何度も見返しました。
それくらい見ていて心地が良く、まさにかゆいところに手が届くような演技、つまりここはこんなふうに演じて欲しいなぁと思うそのままを舞台上で表現してくれたと言う感じです。
まとめ
今回私は宝塚オンデマンドでこの2つの作品を見比べてみました。
花組の「エリザベート」はその前にDVDで何度も見ていたのですが、月組に関してはオンデマンドが初めてでした。
花組と初演の雪組の一路真輝さんの「エリザベート」しか見たことがなかったので、他の組はどんな感じに演じられているのかとても興味がありました。
実際に見てみると、こんなにも違うのか!というのが正直な感想です。
もちろん何度も見ているから花組の方が目に馴染んでいると言うところは正直ありますが、それでもやっぱり私の中では花組の「エリザベート」に軍配が上がりました。
これからも「エリザベート」は、宝塚で何度も再演されることでしょう。これだけは言えるのですが、再演ものと言うのは必ず初演がお手本となっています。
初演とは全く違う演じ方をすることも大切ですが、でも実は模倣することの方がもっと大切だと思います。「エリザベート」ファンというのは、前観た「エリザベート」を期待して、また劇場に足を運ぶのですから、「なんか全く違うな〜」というのはいただけません。
これはあくまでも私個人の感想ですので、参考までに読んでいただけるとうれしいです。
宝塚オンデマンドでは「エリザベート」の配信を予定しているようなので、他の組とも比較をしてみたいと思っています。
もしよければまたこのブログにお越しください。
最後までお読みくださり、ありがとうございました。